1990年代に小さなブームを起こした「地ビール」が、2018年頃から「クラフトビール」として再び注目を集めている。日本各地にある小規模醸造所が、自由な発想で個性豊かな味わいのビールを次々と生み出しており、熊本も例外ではない。クラフトビール専門店を営む田上晃子(たのうえあきこ)さんの指南のもと、熊本発クラフトビールの世界へ飛び込んでみよう。

九州最大級の専門店が大津町に 国内外の約350種類がずらり

店はJR肥後大津駅から徒歩で約6分、旧国道57号沿いにある。同駅と熊本空港を結ぶ無料の空港ライナー(https://kukouliner.com)を利用して訪れる県外客も。

「グイッと飲み干すのではなく、ゆっくり味わうのがクラフトビール」。田上さんのその言葉に、クラフトビールへの興味がかき立てられた。田上さんは菊池郡大津町(おおづまち)で九州最大級のクラフトビール専門店『WITCH CRAFT MARKET』を営む、いわば“クラフトビールの専門家”。店では国内外の約350種類を扱っており、各ブランドの特徴やおいしい飲み方についても造詣(ぞうけい)が深い。

クラフトビールの開発や製造にも携わるほど、“ビール愛”にあふれた田上さん。国内はもとより海外のクラフトビールにも精通している。

そもそもビールは低温発酵で爽快感ある味の「ラガー」と、やや高めの温度で発酵させる香り高い「エール」の大きく2種類に分けられる。日本のビールの主流は前者だが、クラフトビールは後者が多い。テレビコマーシャルの影響か「ビールはキンキンに冷やしたグラスになみなみと注ぎ、グビーッと喉越しを楽しむもの」というのが一般的だが、それは「ラガー」に適したスタイル。「作り手の熱意が込められたクラフトビールはゆっくりと堪能してほしい」と田上さん。店内で多様な形状のビアグラスや国内外のおつまみも販売しているのは、「クラフトビールを楽しむ“時間”を充実させるお手伝いを」という計らいなのだ。

店内に並ぶビールはカラフルなデザインのものが多い。飲んだ後の缶や、瓶のラベルを収集する人も多いそう。

個性豊かな味わい! 熊本発の3ブランドを紹介

「クラフトビールの魅力を伝える場所を作りたかった」と田上さん。ビギナーも大歓迎してくれるので相談しやすい。

『WITCH CRAFT MARKET』で扱う熊本発のクラフトビールは『熊本クラフトビール』と『うきよなビール』『AMAKUSA SONAR BEER』の3ブランド。それぞれの特徴を解説しよう。

端正で硬派なラベルデザインも『熊本クラフトビール』の特色。醸造には熊本の地下水を使用している。

まず、『熊本クラフトビール』は熊本市内で1997年に創業した醸造所で、作り出す“王道の味”。チェコの醸造家直伝の伝統的な製法で、「ペールエール」「ピルスナー」「ヴァイツエン」「ダークラガー」の4銘柄を製造している。
「ペールエール」はかんきつがほのかに香り、複雑な苦みが特徴。麦芽の味わいをしっかりと感じられるのが「ピルスナー」。「ヴァイツェン」は苦みが穏やかなのでビギナー向き。「ダークラガー」はキレのある黒ビールで、芳醇な香りとコクが楽しめる。

向かって左が「YES」、右2本が「All Together Cryo DDH」。ワインのエチケットのようなラベルデザインも目を引く。

次に、『AMAKUSA SONAR BEER』は2020年に東京からUターンした美容師が天草市で立ち上げた醸造所。流行をキャッチし、時代を反映させたビールを造る。
今年6月には、新型コロナウイルスの感染拡大で影響を受けた接客サービス業従事者の支援を目的に、収益の一部を寄付する「All Together Cryo DDH」を発売。桃やグァバを思わせる香りのジューシーな一本だ。7月に解禁した「YES」は晩柑とパール柑をたっぷりと使用しており、かんきつの濃厚な香りが印象的。酸味や渋み、苦みは控えめながらすっきりとした味わいで、ビールの苦みが苦手な方におすすめしたい。

個性的な銘柄を意欲的にリリース 『うきよなビール』

左から「CITRUS JUICY」、「GINGER HAZY IPA」、「Shiranui Juicy IPA」。郷土愛を感じるラインアップ。

『うきよなビール』は『WITCH CRAFT MARKET』がプロデュースしているブランドだ。宇城市の豊富な特産物を生かしたクラフトビールの製造を目的に、宇城市と共同で開発した。2019年5月、第1弾としてブランド名を冠した「うきよなビール」を初リリースして以来、じわじわと知名度を上げている。
今年の夏のおすすめは不知火(デコポン)をぜいたくに用いたフルーティーな「Shiranui Juicy IPA」と、後味にしょうがが香る「GINGER HAZY IPA」、かんきつの濃厚な香りと甘みがフレッシュジュースにも似た「CITRUS JUICY」。いずれもカクテル感覚で味わえる軽やかな味わいだ。 8月末にはマンゴーを使った新作もリリース。

最初の1本は“ジャケ買い”も一興 もっと気軽に、身近に楽しんで!

1つ選ぶとすればワイングラスのようなチューリップ型が汎用(はんよう)的。『WITCH CRAFT MARKET』にはさまざまなグラスがそろう。

人気の高まりとともに、クラフトビールを提供する飲食店も増え、現在は熊本市内に約10店舗がある。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために営業時間の短縮や店内飲食の休止を余儀なくされている店も少なくない。そこで田上さんは、クラフトビールを購入し、自宅で楽しむスタイルを提案。飲む際の3つのポイントも教えくれた。
①冷やしすぎない
適温は4~6度で、冷蔵庫から出してすぐ常温のグラスに注いで飲むとちょうどよい。飲んでいるうちに温度が上がり、徐々に味わいも変化する。
②まずは色と香りを確かめる
乳白色や麦色、黄金色や濃い茶色、濁った黄色など、見た目の多様性もクラフトビールの特色。口にするのは、色を眺め、グラスで弾ける香りを確かめてからでも遅くない。
③グラスとの相性を知る
クラフトビールは缶や瓶からグラスに移して飲むのが基本。くびれのあるものや飲み口の広いものなど、ビールの特徴ごとに適する形状がある。

ワインのように料理との“ペアリング”を考えるのも面白い。『WITCH CRAFT MARKET』隣のクラフトビール専門のバー『WITCH CRAFT』では手作りビーフジャーキーやスモーク梅干しといったフードメニューを用意。

最後に、田上さんは「難しく考えすぎないで!」とアドバイス。「うんちくよりも、自分の好みにフィットするかどうかが大切。最初の1本は直感でピンときたジャケットで選ぶ“ジャケ買い”もいいですね」。クラフトビールは日々進化し、次々と新しい銘柄が誕生している可能性とロマンに満ちたお酒。追求する余地を残し、気長にその世界に身を置くのも、大人ならではのぜいたくというもの。夏の夜は短い。薄暮にクラフトビールを開栓して、特別な晩酌タイムをゆるっと過ごしたい。

田上さんと会話をしていると、クラフトビールのことを深く知りたくなる。取材後、ジャケ買い”した1本を抱いてウキウキと帰路についた。
DATA

WITCH CRAFT MARKET

[所在地]熊本県菊池郡大津町大津1190-1
[電話番号]096-285-3133
[営業時間]12:00~19:00
[定休日]不定
[ホームページ]「WITCH CRAFT MARKET」のホームページはこちら(外部リンク)
[Instagram]「WITCH CRAFT MARKET」のインスタグラムはこちら(外部リンク)

DATA

WITCH CRAFT

[業種]バー

[所在地]熊本県菊池郡大津町大津1191-1
[電話番号]096-293-3910
[営業時間]19:00~24:00
                  ※WITCH CRAFTの営業中はWITCH CRAFT MARKETの商品購入も応相談。
[定休日]日曜(月曜が祝日の場合は日曜営業、月曜が休み)
[Instagram]「WITCH CRAFT MARKET」のインスタグラムはこちら(外部リンク)