TOPページ  > 知りたい > メイド in くまもと 先人の技を次代へとつなぐ熊本の石橋

先人の技を次代へとつなぐ
熊本の石橋

霊台橋=弘化4年(1847)架橋。江戸時代の単一アーチ式石橋としては日本最大級を誇る。増水のたびに流されていた木の橋を架け替えるため、「種山石工」と村人たちが力を合わせ、わずか7カ月で完成させた。1960年代まで大型バスも走っていたがびくともしない頑丈さで、現在も歩いて渡ることができる。

県内各地の特産品とそれを販売する物産館、そしてくまもとならではの“モノづくり”など
くまもとから発信するさまざまな“つくる”を伝える「メイドinくまもと」。
今回は、江戸時代から明治・大正時代にかけて活躍した熊本の技術者集団「種山石工(たねやまいしく)」と、その技術を継承しようとする人々の取り組みをご紹介します。

全国に名をはせた技術者集団「種山石工」 通潤橋=嘉永7年(1854)架橋。水不足に苦しむ白糸台地に水を送るために架けられた、高さ20.3メートル、流さ76.36メートルもある日本最大の石造り水路橋。「種山石工」が多くの実験と工夫を重ね、技術の粋を尽くして造ったこの橋は、160年近く経った今も白糸台地と人々の暮らしを潤し続けている。

熊本県は日本有数の“石橋の宝庫”。全国の眼鏡橋の96%が九州に分布し、熊本県内には、「通潤橋(つうじゅんきょう)」(上益城郡山都町・国指定重要文化財)や「霊台橋(れいだいきょう)」(下益城郡美里町・国指定重要文化財)など、日本を代表するものも少なくありません。

「通潤橋」や「霊台橋」のような高い技術を要する石橋を造ることができた背景には、「種山石工」の存在があります。「種山石工」とは江戸時代、現在の八代市に居住していた技術者集団のこと。高度な石造りの技術を有し、江戸時代後期から明治・大正時代にかけて、全国に出向いて数々の石造りアーチ橋を築きました。

「通潤橋」の橋の上には白糸台地に水を送るための石管が並んでいる

しかし現在、「種山石工」の技術を受け継ぐのは、“最後の「種山石工」”竹部光春さん(80歳)ただ一人。技術が途絶えてしまえば、現存する石橋の補修・改築もままならなくなり、いずれは石橋そのものが消滅してしまいます。今、石橋を愛する人々の手によって、地域の、そして日本の建築技術の“宝”である「種山石工」の技を後世に伝えようとする取り組みが、始まっています。

“双子橋”ともいわれる「二俣橋(ふたまたばし)」(下益城郡美里町)は、2本の橋がL字型に連なる美しい石橋。川面に落ちる橋の影がハートを描くことから、「恋人の聖地」としても人気

種山石工・竹部光春さん。石工になって60年以上。第一線を退いた今は後継者の育成に尽力中

「キン、キン!・・・キン、キン!」
深い緑の中、甲高い音が鳴り響きます。ここは上益城郡山都町。自然豊かな町民憩いのスポット「緑地広場」では、「種山石工養成講座」の実習が行われています。絶え間なく聞こえてくるのは、石橋の材料となる石を、削ったりたたいたりして形を整えている音です。

山都町を含む緑川流域は、「種山石工」が手掛けた石橋が数多く残る地域。完成から160年近くを経てなお水路橋としての役割を果たす「通潤橋」をはじめ、今も人々の暮らしを支えている橋も少なくありません。しかし、今や「種山石工」の技を受け継ぐのは高齢の竹部さん一人となってしまいました。

「種山石工養成講座」では約半分の時間を座学に費やし、石橋の歴史や石材の性質、アーチ和算術などたくさんのことを学ぶ。まさに石橋のスペシャリスト育成講座!

2011年度の実習の様子

全国に類をみない高い石橋構築技術を消滅させることなく次世代へと引き継ぎ、石橋そのものも保存していくために、竹部さんを講師に迎え、2011年度に始まったのが「種山石工養成講座」です。現在、建設業や石材店の従業員など、20歳から60歳代までの計8名が学んでいます。

その中の一人、芦北町で建設業を営む平生勝治さんは、3年前、地元の石橋の補修を請け負ったことを機に、石橋をより深く知ろうと受講を決めたそうです。
「受講してみて、仕上げの精度の高さなど、さすが『種山石工』と感じるところが多々ありました。技術を習得し、芦北で石橋の修復・施工の機会があれば生かしたい」と、意気込みを語ってくれました。

石橋造りは、木材で石を載せていくための「支保工(しほこう)」を組むことから始まる(参考写真:不知火山須浦眼鏡橋)

石材を削って、橋のアーチを形造る「輪石(わいし)」を作る

支保工の上に
輪石を並べていく

講座を運営する中心メンバーの一人が、山都町で建設業を営む尾上一哉さんです。自身も「通潤橋」などの補修に携わった経験があり、全国の有志で構成する「日本の石橋を守る会」の会員でもある尾上さんは、石橋の魅力についてこう語ります。

「コンクリート橋の耐用年数は100年程度ですが、石橋は数百年持ちます。おじいさん・おばあさんが渡っていた橋を孫やひ孫も渡る。そんな変わらぬ風景が受け継がれていくこと自体が、文化だと思いませんか?」。

輪石を並べては形や位置を調整し・・・の繰り返し。最後は橋の最頂部に「要石」となる輪石を組み込み、支保工を解体すれば完成

石橋造りの道具の一部。左から大のみ、中のみ、平のみ、平たがね、セット(ハンマー)

ほかにも、自然素材をそのまま使用するので環境汚染の心配がない、古い石橋や石垣、蔵などに使われていた石をリサイクルして使うことができるなど、石橋には良いところがたくさんあると言います。

「養成講座を通じて、高度な技術を持ち、全国の石橋や石垣を修復・改築できる人材を育てたい。緑川流域に、全国に名を轟かす高技術者集団“現代の種山石工”を誕生させることが夢です」と話す尾上さん。熱心に実習に取り組む受講生の皆さんを見ていると、その夢が実現する日は、そう遠くないように思えます。

「緑地広場」には、養成講座がスタートした年の実習で作製した橋も架かっている。まだ2年しか経っていないが、既に味わいのある風情

石橋ガイドブック
くまもと石橋くるり旅

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